世界はハッピーでできてる
 シリーズ…フラワーコミックス
 著者…宇佐美真紀
 出版社…小学館
 巻数…全2巻
 掲載誌…デラックスベツコミ
 参考リンク…小学館コミック




■ ストーリー ■
 スキー教室で出会った宮国香苗と森原英治。二人はまた会おうと約束するが、なんと再会したのは香苗の通う高校で教師と生徒としてだった,。香苗も英治もあきらめようとするのだが…


■ 総評 ■  ★★☆☆☆

 香苗ちゃんの魅力はよく出ていて面白かったです。生活とか環境は世間知らずの超お嬢様だけど、親友の美里との関係とか心とかはどこにでもいるふつうの女の子と一緒だし、英治のことが純粋に好きで可愛かったです。
 逆に英治の魅力は十分に伝わってきませんでした。香苗のことが好きという気持ちはわかるんだけど、読者がほれてしまうようなカッコいいヒーロー的存在ではなくふつうの男の人。そのうえキャラクター性が平凡で特徴がないので、その分物語でカバーできればよかったんだけどもう一歩という感じでした。
 他のキャラクター、とくに靖樹なんかにしても彼の登場の最後が半端で、ちゃんと終わらせてあげてほしかったなと思います。ユースケは2巻になってすっかり存在感が薄くなってしまって残念だったな…

 物語全体としてはヒロインの香苗がお嬢様という設定を教師・生徒モノのという題材とよく絡めていた内容は読んでいて面白かったです。ただ、コマ数みたいなものがもう少し丁寧にあったらよかったなと思います。途中の展開がもう少しあれば尚よかったかなと。(えらそうにすみません。でも率直な感想なので。) 1巻はわりとよかったかなと思うんだけど、2巻目が上記に述べたことが不足していて物足りない感じです。

 作品の出来とは関係なく個人的な好き嫌いでいえば好きな作品です。小学館は女性編集者が多いと聞きますが、そのおかげか女性の心を掴んではいる内容だと思います。だた、小学館の少女漫画はどの作品もそうなんだけどあともうちょっと…って感じなんです。何か足りない…みたいなね。この作品がまさにそんな感じです。



■ 登場人物 ■
 
宮国香苗
 高校生。祖父が理事長を務める高校に通う生粋のお嬢様。
 
森原英治
 香苗の高校に臨時教師として赴任してくる。
 
恩田美里
 香苗の親友。セクハラされた過去を持っている。
 
小野塚 隆
 香苗の高校の教師だったが、問題を起こして辞めさせられている。
 
ユースケ
 香苗の元彼。のちに美里と付き合うようになる。
 
今井靖樹
 ユースケの友人。香苗のことが好き。


※ここより下はネタバレとなっています。了承したうえでお読みください。


 1巻  2004年8月26日 発売

 [ プロローグ お嬢様のズル休み ]

 ヒロインはお嬢様です。この作品の主人公・香苗ちゃんは超お嬢様で失恋旅行でスキーという、恋に奥手な女の子という定番のキャラクターとは反対なところがいいなと思います。
 プロローグなのでキャラクターの説明が入るわけですが、香苗のお嬢様ぶりはもちろんで、スキー教室でわがままな態度でインストラクターの森原英治が香苗のお嬢様ぶりに振り回されたりする描写や「おジョー」というセリフが面白いです。

 カバー裏にも載っている英治が香苗にプレゼントした赤いくまのぬいぐるみが二人のつながりを表す重要なアイテムになってくるということかな。香苗は本物のテディベアが何十体とあるそうで、それにカチンと来る英治もまた面白いですね。



 [ 第1話 先生と生徒 ]

 違う場所で出会って、再会したら先生と生徒だった…よくある展開です。お互い学生と社会人であることを知っていながら、高校生と先生ということを隠すあたりうまいですね。

 学校での香苗のお嬢様ぶりも健在で、サボったり遅刻したり、勉強してもワガママで、先生から甘やかされて、生徒からは「姫」と呼ばれて、理事長の孫で、学校にはお迎えの車で登下校だなんて、生粋のお嬢様。すごいですね。本当に生徒・先生モノでは珍しいタイプのヒロインかも。香苗ちゃんが目立つので英治のキャラが地味というか…学校の先生という雰囲気がなくてフツーのおにいさんって感じです。英治が香苗の学校生活を見てますます「おジョー」と痛感するあたりが彼の平凡さを際立出せているような気がします。



 [ 第2話 噂と写真 ]

 新たに“小野塚”という姿がない教師の名前が出てきて、それが香苗に結び付くみたいだけど、香苗のただのワガママとは違う何かが見え隠れしているみたいです。モトカレ・祐輔をめぐった親友・恩田美里とのことにしても、憎くてケンカしたとかそういうことじゃなくて、何か別の理由がある感じ。香苗はただのワガママお嬢様ではない…そんなところがあるように思います。

 ひとりでお弁当を食べたり、クラスの中でもひとりぼっちなところはお嬢様だからこそなのかもしれないけど、香苗ちゃんって性格がお嬢様というよりは環境がそうさせている感じ。お嬢様だけどどこにでもいるような英治に恋をして、美里という親友がいて彼女とちゃんと付き合いたいと思ってる。「自分を犠牲にして友達を守ろうとしている。」という教師の弁護もあり、根はどこにでもいるようなふつうの女の子かもしれませんね。



 [ 第3話 キスと秘密 ]

 美里は香苗にふつうに接したいのに美里の友達が香苗には寄りつかなくてなかなか話せないのは辛いところ。そういうことありますね。仲良くしたくても自分の友達が相手を嫌ってどうしようもないこと。香苗は「向こうが嫌ってるからしょうがない。」と言ってるのは、逆をいえば仲良くなりたいってことですよね。
 ひとりぼっちでご飯を食べている香苗を見ている生徒に、香苗のお弁当はキャビアとかフォアグラが入ってるだとかお重だとか言って生徒の関心を引こうとして、でも実はふつうの女の子で仲良くなれるきっかけを作ってくれたり、浮かないために電車通学をすすめたりする英治のさりげない優しさがいいですね。
 でも、電車通学すすめたのはいいけどやっぱり心配で悶々としたり、香苗のためにわざわざ電車通勤に変えたりだとか、香苗に振り回されている感じの英治が微笑ましい。(笑) それが香苗のワガママとかいう嫌味じゃなくて、ただの英治の優しさだからこそです。

 最寄りの駅を調べようとして日本地図を引っ張ってきたり、一人で電車に乗るのは初めてだとか、電車賃をカードで払おうとしたりするなどの世間知らずのお嬢様ぶりも相変わらずで面白いです。


 2巻  2005年7月26日 発売

 [ 第4話 お嬢様の誕生日 ]

 近くにいる人ほど相手のことを理解していないことってよくありますね。香苗は両親が離婚して母親と暮らしている。だけど、香苗のことをわかっているのは母親ではなく父親。だからこそ父親にはまだまだ甘えて抱きついてしまう香苗ちゃんが子供っぽくて可愛かったです。

 英治の友達が来ると知って誕生日を言い出せなかったうえ、祝ってくれなくても一緒にいてくれたことがなによりのプレゼントでうれしいという香苗ちゃんの純粋さがかわいいな〜と思いつつも、恋人の誕生日を祝ってあげられなかった英治はため息がでてしまうわけで、男殺し的な感じが微笑ましいです。英治よ、次回はちゃんと祝ってあげて。

 二人の関係を香苗の父は気付いてしまったのかということですが、薄々何かを感じたかもしれないですね。香苗パパは娘が幸せなら何でも応援してくれそうな優しい雰囲気がします。
 「パパさん」というセリフを久々に聞いたよ〜。昔、あるドラマでヒロインの女の子が相手のお父さんのことを「パパさん」と言っているのを聞いてから「パパさん」というセリフが可愛く聞こえてツボなんです。(笑)



 [ 第5話 幸せと嘘 ]

 香苗と英治の幸せは束の間で、理事長に香苗をこれ以上孤独にさせたくないと釘を刺され、英治と香苗が二人きりの現場を押さえられて、二人の幸せを読み楽しむ暇もなくどんどん物語が進んでしまってちょっと残念。あっという間に香苗の親友・美里の問題に。
 香苗ちゃんってお嬢様だけど、特定の親友がいて心から心配してくれてふつうの女の子だなって思います。美里の方も香苗をみんなと同じように思っているところがステキですね。今回の騒動で再び傷つけられた美里の気持ちというのは本人にしかわからないだろうけど、一度負った傷というのはそう簡単に癒えるものではないです。とくに心の気持ちとかデリケートな問題は。辞めさせられた小野塚とかいう教師が関係しているらしいけど、美里が彼に何をされたのかはっきり見えてきましたね。

 祐輔が香苗の元彼ってことで重要な人物だと思われていたのに、ストーカーに狙われている香苗を助けてくれた祐輔の友人・今井靖樹の方が英治と香苗の関係に感づき始めるなどいつの間にか目立つキャラになってます。



 [ 第6話 恋と罪 ]

 小野塚は香苗に復讐しようとしていたということでしょうか。美里を傷つけて怒った香苗が辞めさせて、恨みをはらすために香苗をつけたら香苗が森原先生といるところを偶然キャッチして今回の騒動になった。こんなくだりかな。
 でも、結局自分が追い込まれるハメになって仕方なく英治が連れてきた女性とのツーショットを流すことになってしまったわけだけど、ここのあたりをもう少し内容あるストーリーにしてもらえるとより良かったかなと思います。あっさりすぎて何か足りませんでした。

 自分がクビになるかもしれない瀬戸際にいるというのに香苗を守ってくれて、案の定自分だけが悪者になって辞めると決めた英治は本来ならカッコいいヒーロー像として位置付けられるんだろうけど、英治の魅力不足からかあまり物語に入り込めずでした。



 [ 最終話 英治と香苗 ]

 森原先生を辞めさせるな〜ってことで香苗や美里に味方してくれるみんながストを起こして訴えるというドラマのような展開、個人的な感想を述べればこういうやり方は好きではないです。なんか興ざめしてしまうので… それにストを起こしても結局英治と香苗の気持ちを再確認するだけの役割で、英治は辞めることになったんだから意味ないし。

 理事長に香苗と英治のことがバレて反対されていたのに、その間の物語がなくてラストにあっさり二人が婚約祝いだとか話をもってこられても物語に入りこめていないと感動することができないです。