ほしいのはひとつだけ
 シリーズ…講談社コミックスなかよし
 著者…高瀬 綾
 出版社…講談社
 巻数…全3巻
 発売年…1999年〜
 掲載誌…なかよし
 参考リンク…講談社BOOK倶楽部




■ ストーリー ■
 緋川梨花は中学2年生。クラスメイトの松浦哲太に告白され驚くが、彼の真剣な想いを知り付き合い始める。その一方で、次第に気になりだす担任の矢野先生の存在。先生と一緒に過ごして哲太よりも好きな気持ちに気付く。だけど矢野先生はお姉ちゃんが好きな人。それでも先生への想いはどんどん大きくなっていく…


■ 総評 ■  ★★★☆☆

 姉妹で先生を取り合うという、、ハラハラドキドキな展開で面白かったです。最初、あらすじを読んだ時に梨花が好きになった先生が姉の彼氏という設定に、そこからどうやって先生が梨花に堕ちていくかとか、どうやって姉のことを納得させるのかといろいろ考えましたが、二人は恋人同士という関係とは遠い雰囲気、桐子(梨花の姉)が一方的に先生を追いかけまわしてる感じだったので、ホッとしました。これがもし二人がちゃんとした恋人同士なら、もっと難しくドロ沼劇になっていたことと思います。そんなことになったらなかよし読者がついてくるかどうか… それでも、これをなかよしで連載とは少し刺激が強かったような気がしますが、連載されたというはOKなんでしょう。
 コミックスで3巻という短い連載ですが、さすが講談社だけあって短いながらにも伝えたいことは明確になっていたし、骨組みもしっかりできていて十分に楽しく読める内容になっています。子供むけなかよしだからと侮ることなかれ。
 1999年というと、私はなかよしから卒業してましたので、まさかこんな作品が連載されていたとは知らず。私の頃のなかよしといえば、「美少女戦士セーラームーン」や「魔法騎士レイアース」あたりが有名どころ。いかにも少女漫画っぽい作品でした。セーラームーン、懐かしい…

 さて、この作品は童話「赤い靴」がモチーフになっていますが、その赤い靴の女の子と同じようにほしいものを手に入れると犠牲を払わなければならないということがこの作品では語られています。それを赤い靴の作品の説明がなかよし読者向けのわかりやすい表現になっていたこと、そして、人を犠牲にした代償というものがこんなにもつらいものだということをしっかり説明されていてよかったです。
 赤い靴って実はあんまり知らない童話でしたが、読んだ後にちゃんと調べてみて、そんな怖い物語があったということに驚きでした。自分に正直になるのも大切だけど、傷つけてしまった時の償いというものはもっともっとつらくてどんなに大切かということをみなさんも考えてみてほしいと思います。



■ 登場人物 ■
 
緋川梨花
 中学2年生。
 
矢野 昂
 梨花の担任。
 
緋川桐子
 梨花の姉。
 
松浦哲太
 梨花の彼氏


※ここより下はネタバレとなっています。了承したうえでお読みください。


 1巻  1999年7月 発売

 はーい。「なかよし」で連載していた作品なのでヒロインは中学生でございます。主人公・緋川梨花は彼氏ができて幸せのはずなんだけど、しだいに担任の矢野先生が好きになっていきます。しかも、ライバルはお姉ちゃん。姉の好きな人が自分の担任と知る梨花。こういうの見てていつも思うんだけど、ライバルがけっこう身近な存在で、世の中って狭いなって。とくに漫画の世界ね。(笑)

 矢野先って眼鏡かけて見た目は真面目そうに見えるんだけど、近寄りがたい存在ではなく、ちょっと頼りなさそうな感じで先生らしくない。そんなところがいいです。そんな先生を見て梨花は姉の好きな人が先生だということに信じられない感じで、ケンカとまではいかないけど友達感覚で話せる間で、でも、先生と二人でいるとドキドキして意識しちゃって、そんな二人の距離感がとてもよくできているなと。「矢野のくせに」とか、梨花が先生を上から目線なんですよね。(笑) でも、先生はあまり気にしてない。面白い。

 先生と梨花の姉・桐子の出会いは合コン。桐子は先生に対して本気の気持ちだけれども、先生は恋人対象にはしていない感じ。桐子が強引に押し掛けたり振り回しているところもあるような。

 クラスメイトで梨花の彼氏・松浦哲太。アイドルみたいでかわいい顔してます。梨花のことがすごく好きでやっとラブラブになれたのに、修学旅行ではかわいそうでした。二人で自由行動をともにするはずだったのに、先生が気になって後をついっていた梨花にほったらかしにされて。
 一方の梨花は哲太に悪いと思いつつも、矢野先と一緒にいることを選んでしまう。梨花がほしいもの、それは矢野先生。はたして、梨花の恋はどうなるでしょうか?

 タイトルにもある「ほしいもの」、これがこの物語のキーワード。梨花のほしいものはもちろんだけれども、自分と違って桐子はほしいものは手に入ったとか、手に入れるものをあきらめるべき、とか、先生にはほしいものが手に入らない人のような感じで、過去にも繋がって、そして今の物語にもどう関わってくるのか、先生の方にも期待。


 2巻  2000年1月 発売

 梨花は姉に矢野先生が好きだと知られてしまい、兄弟で同じ男を取り合うというシリアスな展開になってきました。ただ、小学生向けのなかよしが連載ということもあり、ドロ沼風にはなっていませんが、それでも言い争うなかで、「昂だけはとらないで!」とか、人のことを「ほしい」とか物のような扱いをする発言だけでもけっこう子供むけにはインパクトあると思います。人に対して「○○がほしい」という言葉って卑劣っぽく聞こえます。

 桐子をおっかけた青山游という男が現れ、先生たちとダブルデートで、別にやらしいことするわけじゃないのに二人でいるところにヤキモチやいたりして、梨花の想いはどんどん大きくなってく。
 みんなで海に行くシーンなんかは、梨花の複雑な想いがあり、トレンディドラマにも出てきそうなシーンです。游は梨花が矢野先生を好きだと気付き、梨花と矢野先を二人きりにさせたのは一体どいうことか。梨花を狙っているはずだったけど応援する気になったのか。

 梨花に告白されてはっきりふってしまった矢野先だったけれど、桐子とデートの日に梨花を呼び出して二人で出掛ける。しかも梨花の理想のデートプラン、最後におもちゃの指輪を贈った意味が複雑な感じ。まるで本当の恋人同士みたいでした。
 その矢野先ですが、自分が二十歳の時にできなかったことを14の梨花がしたということ。先生は京都の大学で年上の院生を好きになった。なかなか告白できないでいると兄に持ってかれてしまったという、梨花たちと同じようにキョウダイで同じ人を好きになって自分はあきらめることになってしまったという過去があったのでした。

 これでかわいそうなのは、梨花に突然フラれてしまった哲太。相手はだれなのか教えてくれないし、梨花のことが本気で好きで梨花のために一生懸命になっていた。しかも、自分は最初から好きになってもらうつもりで付き合っていた程度だと知り、彼のショックは相当なものです。かわいそう… 先生生徒ものでいちばんかわいそうなのは必ずヒロインを好きになった男の子ですね。哲太も例外ではなそうです。


 3巻  2000年7月 発売

 お姉ちゃんのことを思い、矢野先のことはあきらめることにした梨花。でも、本当は矢野のことが好きで、だけどもお姉ちゃんの幸せを守ってあげるというお姉ちゃん思いな子。でも、矢野先生の心はなんだか複雑そう。

 そんな中で、校内で暴力沙汰の事件が起きる。どうやら矢野先生と哲太が関係しているらしい。本当は矢野先生は何も悪くないのに、自分だけ責任を負わされることに。二人が話していたことは梨花のことだったけど、梨花をかばって、さらに哲太もかばった矢野先、いい人すぎる…
 矢野先は一カ月間の謹慎処分。文化祭にも復帰できなかったけれど、突然現れた矢野先。そこに飛び込んでいく梨花。謹慎している間、京都にいっていたそうで、そこで梨花の顔を思い出す。その時、矢野先の中で梨花への気持ちがはっきりしたんじゃないかなって思います。
 二人か共通にあることは、だれかのために自分がほしいものをあきらめること。矢野先生は過去に女性を、梨花は今矢野先生をあきらめようとしてる。だけど、気付く本当の気持ち。想われてる方も本当の気持ちを押し殺してまでも幸せになれるとは思わないし、想っている方も本当の気持ちを隠してもいつかつらくなる。人間の心って複雑です。矢野先生がほしいもの、そして梨花が本当にほしいもの、それがやっと今二人で重なりました。

 せっかく両想いになれたのに、その気持ちだけで十分だと、やっぱりあきらめようとする梨花。だけども矢野先生はあきらめないことを梨花に教わったと話してくれた。もう本当の気持ちを隠して生きていくことはやめようと、矢野先生は梨花から学んだんでしょうね。
 矢野先生が梨花を選んだということは、桐子は失恋、ほしいものが奪われることになる。それを知った桐子は家を飛び出す。もう梨花と姉妹とは思えないと。恋愛が絡んでくると、女のキョウダイでも敵になってしまうんですかね。女ってそういう生き物なんだね。怖ろしい…
 そして、相手から奪うということはそれなりの犠牲がついてくる。お姉ちゃんが梨花から離れていくという犠牲。それに耐えられない梨花は、姉が許してくれるまで矢野とは会わないと決める。梨花、お姉ちゃんこと大切にしてるんですね。
 でも、桐子はアメリカに留学するということで、15歳の誕生日に矢野先生とのことを認めてくれたカタチとなりました。それでも過去に起こったことは紛れもない事実。ひとりの男を姉妹で争ったという過去は消えません。梨花のことを妹として思えなくなった桐子の気持ちもまたつらく切ないですが、矢野先生は自分の意思で梨花を選んだことだし、最初から矢野先生は桐子に対して夢中になっている感じではなかったので仕方のないことなのかなと思います。

 ほしいのはひとつだけ。桐子を傷つけることになってしまったけれど、梨花も矢野先生もいちばんほしいものがやっと手に入ってよかったです。だれかのためにほしいものをあきらめる、そんな人生を経験してきた矢野先生や梨花に、私もそれが恋愛でなくても自分に正直になって手に入れるのも悪くないかなと思ったりしながら、この感想を書きました。