タマネギなんかこわくない!
 シリーズ…マーガレットコミックス
 著者…斉藤 倫
 出版社…集英社
 巻数…全3巻
 コミックス発売…1990年〜
 文庫判…全2巻
 掲載誌…別冊マーガレット
 参考リンク…集英社BOOKNAVI





■ ストーリー ■
 私立・椿台女子高校に新しく赴任してきた家庭科教師は、無愛想でヤクザのような風貌の矢口先生。おちこぼれで問題児の森ノ内聖は、矢口先生の個人指導を受けるハメに。厳しい指導に猛反発の聖だったけど、先生の優しさに次第に惹かれ始める…


■ 総評 ■  ★★★★☆

 面白かったです。笑いました。胸がキュンとなりました。聖が可愛かったです。先生のキャラも聖のキャラも強烈でした。

 矢口先生には頬に傷がありますが、最初考えたのは指が一本ないという設定だそうで、少女漫画なので結局NGになったということらしい。もし先生の指が本当に一本なかったとしたらそれはそれで別のテーマにもなりそうですが、ちょっと見てみたかったも。

 主題にあるのは先生×生徒の恋愛だけれども、ありきたりな先生生徒ものにはならず、暴走族やヤクザがでてきたり、ヒロインが完全にコメディエンヌ路線で、先生だって風貌怖いしで、いい意味で裏切ってくれたなって思います。コメゾーさんとか矢口先生の姉3人とかもいいキャラでした。
 基本はコメディ作品なんだけど、聖の先生に対する切ない想いとか、乱闘騒ぎとかシリアスな展開もあり、冒頭と終わりはコメディらしくさわやかで完成度高いです。ところどころにギャグが散りばめられていて楽しく読むことができます。

 作者自身は文庫判のあとがきでらくがきのような絵と言っていたけれど、線は細いけど絵柄は可愛くて私は抵抗なく読むことができました。



■ 登場人物 ■
 
森ノ内 聖
 高校1年生。学年一の問題児。
 
矢口淳一朗
 家庭科教師。元暴走族の頭。
 
森ノ内 彩
 聖の姉。矢口の大学時代の友人。
 
東条正彦
 聖のクラス担任。生徒に人気。
 
牧山 司
 聖の同級生。


※ここより下はネタバレとなっています。了承したうえでお読みください。


 1巻  1990年7月 発売

 こちらは先生も生徒もインパクトありすぎるタイプ。多くの場合、先生側に何か特徴があったりして、ヒロインはお嬢様かフツーの子か、どっちもフツーっぽい感じなんだけど、「タマネギ―」は、問題児生徒に元暴走族教師。これだけでも強烈なんだけど、中身がけっこう面白くて期待できそうです。

 主人公の聖は学年一の問題児で劣等生。料理はできないし、しとやかさもなく、女の子のかけらもない。元気だけが取り柄の女の子。一方、家庭科教師として赴任してきた矢口先生は強面にサングラス、おまけに顔に傷があるというまるでヤクザのような風貌。そしたら元暴走族だったという過去。そんな二人が最悪の出会いをして、少女漫画だからきっとくっつくはずだろうけど、この二人がどんなカタチの結末を迎えるのか、途中の展開がまったく読めなそう。少女漫画というよりは少年漫画に出てきそうな主人公たちだし、先生×生徒モノでもちょっとクセのあるカップリングで、それだけでも読んでいて楽しいですね。

 聖は担任の東条先生のことが好きでお弁当を持っていくんだけど、まずくて食べてもらえなくて、居残り指導している矢口先生と対立しながらもしだいに矢口先生が気にだり出して。矢口先生の理想は聖とは正反対の性格で、それは聖の姉・彩(みどり)のような人だと思っていたら、なんと彩と矢口は大学時代のサークル仲間で、実は矢口に憧れをもっていたけどすでにフラれて…と、1巻からみどころ多くていいです。

 聖は先生に告白しても、先生はからかっているだけという認識でしかなくて、でも彩に怒られて、二人の恋は前途多難… 聖って問題児だけどキャラクター性に嫌味がないし、キュートで私は好印象。先生に見向きもされない聖を応援したくなっちゃう。

 あと、よかったのが矢口が家庭科教師である意味がちゃんとあること。男性の家庭科教師ってイメージないですよね。だけど、矢口先生はだらしない日本の女性を良妻賢母にするという目的があり、そこでちゃんと疑問を払拭する説明が盛り込まれてる。だから、矢口先生が家庭科教師ということに何の違和感もなくなりました。

 基本的にはコメディ路線のようで、ヒロインの聖に笑わせられます。落第しないようにワイロを送るだとか、先生の顔に落書きするだとか、オデコの傷が治ったのにマジックで書くだとか…。たしかにヒロインらしい要素はないな…

 1巻がわりと面白くて好印象。こんな生徒・先生モノもあるんだな。


 2巻  1990年10月 発売

 失恋して学校を休んで、矢口先生がお見舞いに来てくれたのに素直になれなくてグレてやるとか言って、暴走族になりたい…とか言う聖の発想が陳腐で、だけど聖のキャラクターや性格などから予想を裏切らない展開でそれがかえって笑えます。
 だけども、コメゾーさんたちの仲間入りしたら敵対している暴走族とやり合うはめになって、相手に嵌められて学校に証拠写真が残って、笑いを取ったシーンがいっきにシリアスな展開に… 聖は数々の問題を起しているということで、テストで全教科70点以上取れなければ退学という厳しい状況に追い込まれます。そしたら、なんと家庭科の指導をしてくれてる矢口先生が、家庭教師として他の教科の面倒まで見てくれて、無愛想な印象しかなかったのに実は優しいんじゃないか…と思ったら、実は聖を試験にパスさせなければ先生もクビという事実。つまり連帯責任で自分のクビを逃れるためにしていたという、自分のことを心配してくれていると思っていた聖にとってはとてもショック。矢口先生ってやっぱり聖のこと、世話のやける生徒ぐらいにしか思ってないのかな。
 家庭科の試験で先生たちの前で料理を作ろうとしたら、矢口先生から貰った包丁を落っことしちゃって、戸惑う聖がかわいそうだった…

 聖は結局試験パスして退学は免れ、無事に進級できたんだけど、今度男子高と合併することになって、聖に目をつけた牧山司という男子生徒につきまとわれることに。彼のせいで先生との中がぎくしゃくし始めるんだけど、やっぱり先生は何でもないような態度。聖は先生にネクタイをプレゼントしたけど、修学旅行で司と二人でいるところを見られて、ネクタイをもらう理由はないから…と返されて、やっぱり聖の思いは一方通行で、問題児でハチャメチャな女の子だけど、先生に対する想いは真剣で、だけど伝わらないのが切ないです…


 3巻  1991年2月 発売

 聖に接近する牧山のせいでもつれる先生との関係。牧山がどーも胡散臭い奴だと思ったら、矢口に敵対する暴走族・デモンズの頭で、最初から矢口先生を陥れるためのワナ… でも、途中から聖に対して本気で好きになって結局いい人というオチ。この漫画で悪役っていないんだなぁ。そういえば、聖と矢口先生との仲を邪魔する人間って牧山以外にいなかったかな。

 デモンズが学校を襲撃してきて先生に脅迫状を。ひとりでデモンズのアジトへ行った聖が襲われそうになりますが、それを助けた矢口先生がかっこよかったなぁ。元暴走族の頭だっただけあって、本気になればめちゃくちゃ強い。そして、先生の姉軍団やコメゾーさんも助けに現れ、学園ドラマのケンカシーンを見てるようでした。

 彩の言葉によりやっと気持ちと向き合って聖と先生が結ばれましたが、一度気持ちを伝えてもまた離れてくっついて…終盤なんかはドラマみたいでした。
 彩が「理想とかけ離れた人を好きになっちゃうことがある。」って言っていたけど、実際にこういう人多いんじゃないでしょうか。理想と現実って違うんですよねー。矢口先生は女性に執着しない人だから理想は本当に理想でしかなくて、実際になってみると全く違うような人がタイプで。でも、聖を相手に選ぶのも意外っていえば意外。(そんなこと言ったらこの作品を否定することになるか…) 出会いなんてどこに転がってるかわかんないですね。



 BABY DREAM

 矢口先生と聖のその後のストーリーです。

 今回のお騒がせは聖でもなく先生でもなく… 先生と聖は結婚を控えているのだけど、なんと、聖が知らない綾子という謎の女性が現れて、「あなたの子よ!」と矢口先生のところに! 少女漫画とか昼ドラに出てきそうな展開だよー。もちろん先生には身に覚えがなくて、それでも聖は信じられなくて、結婚やめるとかいいだしちゃった。
 綾子の父(ヤクザ)が現れて、矢口先生と一騒動起こすのだけど、こういうヤクザ絡みの騒動は本編でもあったような矢口先生と暴走族との話を思い出させるシーンで、この作品の特徴のひとつかなと。

 でも、子供は綾子と本当の夫の子。夫をハネムーンの船旅で亡くして、父親が縁談もってくるのが嫌になって以前助けてもらった矢口先生のところに掛け込んでしまった、しかも、夫は死んだと思ったら漂流していて生きていた…という、コメディ作品によくある、いままでの騒動って何だったの的な、すべて冗談で終わるという結末でしたが、今回の騒動により、二人の絆が試されて、すっきりしてラストを迎えることができて爽やかなハッピーエンドでした。
 最後はもちろん、先生と聖の結婚式、そして、その後、聖太朗という子供が生まれてめでたしめでたし。聖太朗という名前は、もちろん聖と先生の名前を取ったものですよね。

 タイトルがBABYとあるくらいなので、赤ちゃんが絡んでくるストーリーだろうなとは思いましたが、東条先生&彩夫妻に子供ができる、リアルに子供が現れたり、そして、聖が矢口先生との子どもを夢見たりなど、広い意味で子供というカタチが表現されているんだなと。
 たった短いストーリーながら、この作品の魅力はちゃんと詰まってるし、内容もあるし、前回同様の面白さで良い出来でした。


●マーガレットコミックス・「一億年後の夏の話をしよう」に併録。
●集英社文庫から発売されている「タマネギなんかこわくない!」(全2巻)の2巻目にも収録されています。