スイッチ
 シリーズ…花とゆめコミックス
 著者…望月花梨
 出版社…白泉社
 巻数…全2巻
 発売年…2000年〜
 掲載誌…花とゆめ




■ ストーリー ■
 中学3年生の名倉絅は、先生に好かれたことのない女の子。親友の梢が夢中になっている担任の広田先生も苦手に感じていた。だが、梢が広田先生に怪我を負わせてしまった事件をきっかけに、絅は広田先生が他の先生とは違って自分を他の生徒と同じようにちゃんとみてくれる大人な対応に次第に心動かされていく…


■ 総評 ■  ★★★★★

 先生生徒の恋愛を扱った漫画はたくさんあるけれど、ここまで生徒と先生の心の触れ合いだけで表現した作品はないかもしれません。少女漫画に最低でもキスぐらいは当たり前の最近ですが、絅と広田先生はプラトニックで、スキという気持ちだけで恋をしてる。そのため、派手な展開はなく、静かに時が流れていきます。キスとかエッチとかなくてもちゃんと恋愛を表現できる、そんな漫画の底力を見せつけられたように思います。

 ヒロインの名倉絅ちゃんも相手役の広田先生もとてもリアリティがあり、親近感が湧く人物。広田先生は生徒思いで楽しくて時には同じ目線でくだらない話につきあってくれる。だけど、教師と生徒としてのラインは引いているし、生徒を正しい方向に導いてくれるとても素敵な先生。実際にこんな先生が担任だったらいいなと思わせてくれる人でした。ところで、広田先生の下の名前が気になった人は私だけではあるまい。
 絅は真面目で信頼が厚くて、言ってみればイイ子タイプのクラスメイト。こういう生徒って絶対にどこかでみたことがあると思います。漫画を意識していないフツーの生徒なところが好感持てました。そして、先生嫌いという性格を、広田先生と出会ったことで直そうとしていくところがカワイイ。ただ、真面目なところはかわってなくて、むしろ広田先生と付き合うことによってその真面目がどんどん強くなって、そういう性格はちょっと可愛くないかも。ぶりっ子もイヤですが、絅みたいに堅すぎる子はもう少し人に頼って甘えるくらいがちょうどいい可愛さだと思います。

 この物語のもう一つの柱になっているのが、絅と親友・汐見梢との友情。絅のことを心配し励まし見守り、絅にとってなくてはならない存在です。こういう大切な友達がいるのはいいなと思わせてくれるものでした。

 二人は心の触れ合いや気持ちだけで付き合っていくので、主人公の絅は気持ちがわかるんだけど、広田先生は本音を言わないので絅のこと本当に好きでいてくれるのかはっきりと見えないのがすっきりしないところでもありますが、物語全体としてはとてもよく出来ています。

 先生の定番・セオリーなら先生の元カノ登場やいったん破局など、紆余曲折して絆を深め合って最後にはハッピーエンドという流れですが、絅と広田先生の心を通して描かれる本作は、今までの先生生徒モノとは違った角度や描き方をしていて、それがまた上品な上質な仕上がりになっています。派手さを求める人には物足りなさを感じるかもしれませんが、漫画というそのものを評価する人にはオススメな逸品です。先生生徒モノが好きな人はぜひ。個人的には、マイベストである「海の天辺」に次ぐ好きな作品になりました。



■ 登場人物 ■
 
名倉 絅
 中学3年生。先生という人間が苦手。
 
広田
 絅の担任。英語教師。
 
汐見 梢
 絅の親友。
 
木暮
 絅のクラスメイト。絅のことが好き。


※ここより下はネタバレとなっています。了承したうえでお読みください。


 1巻  2000年10月 発売

 先生・生徒モノのはじまりといえば、ツンデレか先生に恋するパターンですが、このスイッチの漫画に出てくるヒロイン・名倉絅は、ちょっと暗い性格で、先生という存在を苦手に感じており、今回の相手役である担任の広田先生も苦手に感じるという奥手タイプ。
 広田先生は生徒と混じってしまうくらいに先生ぽくなくて、いい加減で常識なさそうというのが絅のイメージ。だけど、広田先生は生徒のことちゃんと見てます。絅と親友の汐見梢は持ち物を交換しあうほどの仲良しぶりで、たとえば上履きなんかもお互いのを履いている。それをちゃんと広田先生は見ている。

 梢が書いたラブレターに一笑した広田。動揺して教材を倒してしまった広田が怪我を負ってしまうんだけれど、その時に梢は履いていた絅の上履きを置いてきてしまった。上履きに気付いた広田先生ですが、絅の名前が書いてあってもそれは梢が履いていた気付いていたんでしょうね。だから、翌日絅に放課後ひとりで残っていたのかとすべてわかったうえで聞いたんだと思います。

 絅は広田に怪我を負わせたのは梢なのに、動揺する梢をかばったり、自分が悪者になればいいやなんて、絅の人が良すぎるところが出てる。絅の少し暗めなところとか、でも優しくて友達思いなところなど、現実にもいそうな感じで等身大のヒロイン像ができあがりそうな気がします。



 広田先生にケガをさせてしまったことに責任を感じる梢。登校してこない梢を探す絅と広田先生。絅は一緒に探してくれる先生に感謝しつつも、愛想がなくて嫌われてる自分が迷惑かけたことに嫌悪してるみたいだけど、絅は別に嫌われなんかない。先生からしてみれば生徒に頼られるということは自分を信用してもらってるということで悪い気はしないのかな。普段先生を苦手に感じている絅に優しく励ましてくれる広田先生です。
 絅は口が堅くてそれは広田先生が感心するところ。そして、絅がクラスメイトをかばったり秘密主義なところが周りから誤解を受けやすいとうころもあるので、絅にも直すべきところがあるんだけど、そういうことも含めて広田先生は絅のことよくわかってるんです。それに、注意するだけじゃなくてそれをいい意味にとって肯定してくれるところなんかはすごくいい先生じゃん。それに、ケガの理由もわかってるのに何も言わずに居てくれるなんて、生徒のこと大事にしてる。
 広田はいい加減で非常識…という印象が強かった絅が、広田先生を、そして先生そのものの存在を見直すきっかけに。広田先生、たしかに見た目はちょっと軽そうな?雰囲気があるけれど、実はすごく頼りになる先生なのかもしれないですね。

 同僚の教師は絅のこととっつきにくそうで苦手意識があるようだけど、教師だって人間ですから苦手な人がいたって当たり前。でも、絅は嫌いということではなくて、どう接していいかわからないだけで、絅が懐けば何かが変わってくるんじゃないかな。



 心理描写に非常にリアリティがあり納得させられてしまいますね。バレンタインデーが軸になって進む今回の中で、梢が広田先生に対して抱いている感情は「恋」ではなくて、「先生を好きでいることが楽しい」という「憧れ」の気持ち。そのことに気がついた梢。こういう気持ちは一過性というもので、先生という大人に生徒が憧れてることがほとんどなんですよね。もちろん、それが本物の恋になることもあるので違うとは言い切れないんだけど、先生に対して告白もしないでキャーキャー言ってるのはその部類に入るでしょう。私にも同じような感情が高校生の時にあったのですごくわかります。
 広田先生も、生徒が自分を好きでいてくれるのは一時的なものであることをよくわかってる。卒業してしまえば自分のことなんか忘れ去られる存在。だから特定の生徒と個人的に付き合うようなことをしないタイプの先生だっていうのが発言とかでわかります。それでも自分を好きでいてくれる生徒に対してクラスぐるみでの思い出作りを用意してくれると言う広田はやっぱり生徒のこととても大事にしている生徒想いの先生なんだろうな。

 絅は自分のことを他の生徒と同じように対等に接してくれる広田に心を開き始め、あくまでもお礼と言い張ってジッポのライターをプレゼントした。他の生徒がバレンタインで贈ったものを受け取ってくれたりするのはやっぱり生徒のこと考えてるいい先生だなって思うんだけど、もちろんそれは営業用的なものでもある。あまりのひつこさに隠れてしまうなどの生身の人間的な感情もあるところが、広田のリアリティさがあって読んでいて好感持てます。
 でも漫画ですのでときにはロマンチックなシーンもあるのは当たり前。特別に生徒と接することはしないタイプの先生だけれど、大雪の日、休校になってもやってきた絅に特別に英語の授業をしてあげる広田先生は、それまでの絅の先生への発言とか態度もあったんだろうけど、絅がもう少し大胆になったら特別扱いしてしまうレベルまできている感じ。実際に一対一の授業はないだろうけど、先生が生徒に対して特別に授業する程度なら許される範囲内では?(個人的な見解。)
 そんな特別授業を大切な思い出としようとした絅が広田先生に向かって「先生のこと好きでいてもいい?」と告白。広田先生ってば「後悔しないならいい。」という、意外な?返答。たぶんこの時はまだ広田先生は絅に対してそういう対象ではないと思う(むしろそのうちあきらめるだろう程度に思っているかもしれない。)んだけど、広田先生は生徒を大事にする教師ですから、だれにでも同じように言ったかもしれないし、生徒の一過性という気持ちは大事にして、生徒のこと傷つけないためでもあるのかもしれません。それでも、生徒の告白に否定しないで受け入れてしまう広田って器の広い男ですね。
 正直、この時点の広田の絅に対する想いを汲み取るのは難しいです。考えればいろいろな見方が出てくる。絅に対して特別扱いはしていないと言ったけれど、絅が自分に迷惑をかけるような生徒ではないとわかっていたから絅の告白を断らなかったとも考えれる。みなさんはどうですか?



 新キャラ登場。広田先生が顧問を務めるサッカー部員の木暮くん。休校の日の絅と広田先生の一部始終を見てしまったようで、その後、絅に脅しをかけたり、絅にしつこく絡んでくる。あの頃から荒れ気味になって部活もサボって、しかも広田先生の「サッカー部を見に来てる絅は自分を見てるんだと思ったら違って逆切れ」とか、これは絅が好きで確定か。休校の日の出来事を見て「灰になった」というのはとてもわかりやすい表現。「サッカーは好きだ。でも広田は嫌いだ。」、明らかに広田への嫉妬でしょう。木暮くんが今後の物語のカギを握る人物??
 木暮くんの脅しに、先生には迷惑かけられないからと黙っている絅ちゃん。広田先生同様、絅の行動もリアリティがあって感情移入しやすいです。絅みたいに我慢強くて真面目な子、クラスにひとりは必ずいるよね。
 同僚の先生からの話でなんとなく木暮のことに察しがついた広田が、間一髪で絅を救い出しました。木暮に脅されても黙ってる絅に、黙ってられるほうがこたえるとか、ちゃんと話せとか、先生としては当然の言葉なのかもしれないけれど、先生という存在が苦手だった絅にとってみればすごくうれしい言葉だったろうと思うし、わかっていても広田のそういう言葉を聞くと読者としても広田の言葉にうなずいてしまいます。やはり絅は広田のことがもっともっと好きになってく。広田の普段の性格と言うのは垣間見れないのでわかりませんが、教師としては惚れてしまうほどの性格を持ち合わせている広田先生に絅が好きになってしまうのはわかる気がします。

 絅の通う学校は中高一貫ということで、なんと、絅の卒業時期に中学から高校にあがる先生がいて、それが広田先生だというのは読んでいて察しがつきますし、あのまま終わってどう展開されるのか疑問、中途半端さを考えれば、まだまだ絅と広田先生の恋物語は序章にすぎません。木暮くんとの関係もあるし。でも、まさかのまさかで広田が高校へ転任は当初予想できない展開だったのでびっくりですね。



 絅が高校生になって、広田先生が高校に上がってしかも絅のクラス担任で、さらには梢も木暮くんも同じクラスで、これからの展開には十分な材料です。広田もいっていたけれど、素直になった絅がホントカワイイ。前は先生のことなんか苦手で近寄らなかったのに、また広田のクラスになって嬉しい気持ちを素直に表現するようになった。言いたいことも言うようになったし、広田と接することで絅がどんどん可愛くなるのがいいですね。

 広田が高校に上がったことは計算外だったということで、やはりそれは絅へのことがあるんだと思います。高校いけばきっと過去のことになると思うけど、また絅と過ごす日々が始まってしまった。木暮自身も広田が高校に上がることは計算外で、つまりそれはライバルとしていってる。たぶん広田と木暮で計算外の意味は微妙に違ってると思うけど、絅が絡んでるという根本的な意味は一緒でしょうね。

 サッカーは好きだけど広田先生嫌いな木暮が、広田は父兄とできているという噂を流し、その理由がわけもわからずで広田先生的にはめんどくさいことになってるけど、木暮は何となく起こした行動といっても広田に対するライバル意識があっての行動でしょうね。何もない相手にへんなことするわけないし、それに、最後に木暮は同種の気持ちを持った人間への対抗心と説いています。つまり絅をめぐっての関係。
 広田は生徒に優しくすることは範疇のひとつだと割り切り、冷たい感じで引き離した。まだ絅に対する自覚症状が出ていないし読者としてもわかりづらいけど、周りから指南されるようになってきて、広田がどう動くのでしょうか。



 広田に冷たく引き離されてしまいショックの絅が再び先生嫌いな頃の感じに。そもそも先生がなぜ自分の気持ちに応えてくれたのかも半信半疑だけど、それでも絅は広田のことが好きな気持ちは変わらない。
 広田の方も絅の気持ちを知ってか知らずか、何事もなかったかのように接する。広田は見かけによらず物事の分別がつくちゃんとしたタイプなので、生徒に手を出すことは考えにくい…はず。なんだけど、絅が広田に正直な気持ちを伝えて真っ向からぶつかったら、先生が絅の気持ちに応えてくれた?「先生を好きでいるのはやめない。」と言ったら、先生は「そうか」と納得してしまい、自分のところに引き寄せる。「好きになってしまったものはしょうがない。」という広田の発言は絅に落ちたと言って良いのでしょうか。

 それでも、やはり先生と生徒という関係は学校の間では消えない壁。特定の生徒に特別扱いはあり得ない。なのに、絅と広田の関係に何か勘付き始めた木暮くん。彼は侮れません。広田先生の解禁日発言にも気になるところです。


 2巻  2001年3月 発売

 気持ちが通じ合った絅と広田先生。だけど、絅が卒業するまでは先生と生徒の関係は崩せない。広田先生も絅も真面目なタイプなので、絶対に約束を守る。絅は物分かりがよく卒業まで何も無しなことにも納得し、絅ちゃんってホント良い子だなぁ〜って思ってみても、やはりそればっかりではなくて、本当は辛くて、ひとりで不安がって親友の梢にも話すことができずにいる、という葛藤がリアルで良いです。
 その絅の気持ちをなんとか知って理解してあげようとする梢。最初は元気のない絅をみてもお節介はやめようと思ったけれど、やはり絅のことが気になって、何にも話してくれない絅に自分の存在は何なのかと疑問になる。絅の悩みを聞きだした梢が、広田先生と二人きにになれるように気を利かせたり、広田にかまをかけるなど、梢の絅への友情がまた良いです。

 広田先生と絅の関係を“逃げ水”で表現するのがわかりやすかったです。逃げ水ってその場所に水がなくて、遠くに水があるように見える。近づいて近づいてもなくて遠くに逃げてく。絅が広田先生に近づこうとしても、近くに先生がいるのに先生は逃げていく。
 それでも、だれもいないところで二人になれば逃げ水はできない。そんなところをこの作品のタイトルである「スイッチ」をさらりと表現するところがまた良いです。教師と生徒というスイッチを切って充電する、つまり教師と生徒という立場を休む。そんな時もたまには必要ですね。



 みんなには内緒で、二人で会ったり、絅と広田先生の関係もやっとそれらしくなってきましたねー。時々生徒と先生の立場を休む「充電」。よくアーティストの人が休養する時に「充電期間」なんていう言葉を使いますが、絅も広田先生も充電することによって安定した心身を保ち、安心した学校生活も送れるようにという、二人だけが使う「充電」というのがヒミツっぽくっていいです。

 先生が出張で充電がなくなってもあっさりしている広田に納得のいかない絅だけど、出張終わって直帰やめて学校に戻ってきて絅のところに会いに来てくれて、本心では絅のこと大事にしているのかなって。

 絅の充電に何やらまた勘付く木暮くん。広田先生が関わっているのではないかと、さすがの鋭さで絅にまた近づきます。絅ちゃんを誘っても、彼女は広田先生しか気になってなくて、全く相手にされていない木暮くんがお気の毒さま。



 広田先生がどうして自分の気持ちに応えてくれたのが疑問になって、突然その気持ちがなくなることを恐れた絅が、先生に好きでいてもらえるように頑張る。クラス行事に積極的に参加して、いろいろな役を引き受ける。いや〜、これ、絅のことが好きな木暮くんでなくともうざったい行動だよね。絅ちゃん自体は嫌いじゃないんだけど、こういう点数稼ぎ的な態度とかいいとこみせたいがために頑張るところって客観的に見るとあんまり感じよくないよね。

 広田先生と木暮くんの絅を巡っての会話では、木暮くんが核心に触れつつも広田先生は本音をなかなか吐きません。生徒と付き合うのなんてリスクが高くて面倒臭いとか、それをまた間が悪いことに絅が聞いてしまって、絅の不安は大きくなるばかり。広田先生は絅のこと大事にしているんだけど、木暮クンの前では絶対に生徒と付き合うなんてことはしないと言うので、広田の本心が一体どっちなのかと思ってしまいます。でも、広田先生だって他の生徒の前ではウソをつかなければならない、本当のことが言えなくて、不安がっているのは広田先生も同じ、という先生の本音が最後に聞けたところを見ると、やはり先生は絅ちゃん側のようで安心。



 だれもいない暗闇の中で絅と広田先生が手を取り合っているところを見た木暮くんが、二人の関係にさらに疑惑を深めることに。読者からしてみれば決定的なシーンで、木暮の考えていることはもうスルドイってくらいあたってる。
 文化祭のキックターゲットで師弟対決をすることになった広田先生と木暮くんですが、その途中で文化祭のアーチが崩れ、そばにいた絅をかばってケガを負った広田先生。自分の方が近くにいたのに何もできなかった木暮が、広田先生を少し見直したけれど、彼の広田先生への態度は結局変わっておらず、絅への本音を聞き出そうとする。広田先生は台風の時も、ケガして絅と二人で職員室にいた時も木暮が様子をうかがっていたことに気付いており、それでも絅のことを隠して、だけど物怖じしない様子をみせる広田先生が頼もしくてステキです。

 絅と広田先生のことをばらそうかと画策する木暮くんに、絅のことが本当に好きなら絅を泣かせるようなことはしないで、と絅と広田の秘密を守る梢がとてもいい存在。梢ちゃん、本当に絅のこと大切な友達だと思ってるんですね。

 いよいよ次の展開で最終回ですが、心の触れ合いで進むこの物語がどんなふうにラストへ向けるのかまったく読めません…



 絅と気持ちが通じ合う頃の前の広田先生は、生徒に優しくてもやはり好きでいてくれる気持ちは一過性にすぎないとわかっている。だから絅は全く相手にされてなかった。視野の広い人が理想のタイプと語る広田先生に、絅が先生嫌いをなくしたり、先生に好きでいてもらえるように変わろうとして、少しずつでも先生に歩み寄っていく絅ちゃんが可愛いですね。

 広田先生は生徒のことちゃんと考えてるし、善悪の判断もしっかりつくしでなかなか素敵な先生なのですが、先生が間違ったことといえば絅の気持ちのスイッチを切らなかったこと。だけど、何かひとつくらい間違ったことがあってもいいのではないかという絅の気持ちが、最後に先生の家へ行く約束をする絅の幸せそうな表情とうまく絡み合っていて、気持ちのいいラストでした。

 ただひとつ残念だったのは、木暮くんの描き方。絅と広田先生のあったかいラストで終わったけれど、木暮くんの広田先生に対する行動がもう少しはっきりと決着がついていればなおよかったかなと思います。