チョコレートコスモス
 シリーズ…りぼんマスコットコミックス
 著者…春田なな
 出版社…集英社
 巻数…全4巻
 コミックス発売…2007年〜
 掲載誌…りぼん
 参考リンク…集英社BOOKNAVI




■ ストーリー ■
 胸キュンな恋に憧れる桜井紗雪が海で出会ったイケメン男は、なんと学校の教師・萩原克弥だった… 先生が嫌いな紗雪の恋は早くも終了!?


■ 総評 ■  ★★★☆☆

 紗雪は目つきが悪くて口が悪くてそれまで彼氏いないという設定たけど美少女で可愛くて彼女に嫌味がなく読めました。
 萩原先生にはもっと注目すべきところがあってもよかったかもしれません。たしかにカッコ良くて存在感もあるし、キャラクター性やヒーローという存在に対して問題はないのですが、物語の中でもっと動かすとか彼の素性をもっと掘り下げるとか、まだまだ見せ場はあったかなと思います。紗雪がメガネをかけていない先生がいいって言ってくれたことや童顔を気にするところとか、主人公がけっこうネタになりそうな題材をふってくれているので勿体なかったです。作者自身萩原先生がいちばん描きづらいとおっしゃってましたが、たしかにヒロインの相手役の先生って動かしづらいかも。脇役は派手にやっても許されますが、ヒーローはカッコよくなきゃいけないし、下手に動かすことはできませんからね。少女マンガの場合、ヒーロー描くのって難しいのかな?

 脇を固める登場人物はイケメン好きの美奈と読書好きの栞のキャラクター良かったし、何よりも悠士をからかう梶の存在が私の中ではいちばん面白かったです。前半いい味出していた香住先生が後半になってすっかり出番が無くなってしまったのが残念。

 集英社では別冊マーガレットでの連載がいちばん多い先生・生徒モノの中で、りぼんはめずらしいかなと思います(昔、吉住渉先生の「ママレードボーイ」という作品で先生×生徒が恋する設定はあったけどメインストーリーではない。)。りぼんは小学生を中心とした子供向けの漫画なので、大人になって読むと何か物足りなさが残るのも事実。実際に「チョココス」を初見で読んだ時は別マガに慣れてしまったせいか、面白さを感じませんでした。なんだけど、2度目以降に読むとそれなりに面白かったのです。作者のセンスが良かったのかな。物語の中に織り込まれるエピソードは定番で展開としてもよくある感じだけど、まったくありきたりというわけでもなく、所々にちりばめられたギャグや可愛い画風にくすっとさせられます。

 この作品でりぼん系の漫画を久々に読みましたが、りぼんが持つほのぼのとした世界観に懐かしい気持ちになりました。私が子供の頃のりぼんでは「ママレードボーイ」が好きで、アニメも夢中になって見てました。りぼんは3大少女漫画雑誌「なかよし」「ちゃお」の中でも大人びた印象があり、恋愛にも一生懸命な女の子の気持ちが伝わってきて、ハラハラドキドキしながら読んでいたのを覚えています。




■ 登場人物 ■
 
桜井紗雪
 高校1年生。目つき・口が悪い。胸キュンな恋に憧れている。
 
萩原克弥
 家庭科教師。校内でとても人気がる。
 
武藤悠士
 紗雪の幼なじみ。紗雪のことが好き。
 
野村美奈
 紗雪の友人。イケメン好き。
 
原田 栞
 紗雪の友人。クールな性格。
 
梶 高行
 悠士の友人。


※ここより下はネタバレとなっています。了承したうえでお読みください。


 1巻  2007年12月14日 発売

 別の場所で出会って学校で再会するパターンもよくある冒頭の掴みですが、多くの場合は先生が新任とか赴任のパターン。この作品はすでに先生が学校にいて、先生側は相手が誰だか知っている(そしてそれを内緒にしてる。)けど、生徒側は学校の先生とは気付かずに好きになってしまうという、今までありがちな展開かと思いきや、最後にちょっと意表をつかれた感じがよかったです。
 お互いに本当に初めて会って学校で再会するという偶然はいかにも少女漫画っぽい設定だなと思いますが、相手がプライベートモードのスタイルでそれに気付かないというのはリアルなのでいいです。私も紗雪みたいにどこかで見たことある人だけど、少しでも何か格好が違うと気付かないですもん。今回の萩原先生みたいにプライベートではメガネなしはわからないことあるかも… メガネ取ると印象変わったりしますからね。それとも、紗雪が鈍いのか先生に関心がないだけなのか…

 同好会設立の話が面白かったです。野球同好会を設立しようとするんだけど、顧問になってもらう予定の萩原先生が家庭科担当だからダメとか、だったら料理同好会でそれもダメで、じゃぁ「料理して食べて野球する同好会」になって、二つをうまく混ぜたあたりで笑ってしまいました。結局、野球同好会に反対していた香住先生が学校で人気がある萩原先生への意地悪にすぎなかったり、クールな香住先生が実はお笑い好きで時々そのクールさが崩れたりして、主人公を取り巻く登場人物の面白さが物語に味をつけていました。

 登場人物の中では、悠士や梶くんの脇役男性陣二人がイイ! 悠士はイジられキャラかな。ヒロインと関係がある人物でもあるようで、きっと彼の役目はそれ以外にもあるでしょう。悠士の友人の梶は女の子に人気があるようなナルシストで2枚目な部分と性格や発言がギャグ的で3枚目路線の二つを持ち合わせていて面白いです。
 一方の萩原先生は主人公が憧れるような定番なヒーロー的存在ですが、家庭科教師というのが意外な設定。先生・生徒モノで多い専門の教科は英語と社会科。男性教師に家庭科という概念はもともと薄いというのもありますが、やはり家庭科は女性のイメージということを考えると男性は主に社会科や理科系をイメージします。
 過去の先生・生徒モノで家庭科教師といえば、「タマネギなんかこわくない!」の矢口先生ですが、矢口先生は自分が家庭科教師である意味が物語にちゃんと反映され、家庭科教師という設定の役割も果たされていました。ヤクザのような風貌教師が家庭科専門というイメージを覆すような設定を物語で納得させ、作品自体も良く出来ていました。別に男性教師が家庭科を教えることに不自然さはないし、その説明がなくても読むうえで重要なことでもないです。ただ、そういう気持ちを持った場合に払拭する説明が萩原先生にもあれば尚いいなと思うですが、さてどうでしょうか?


 2巻  2008年4月15日 発売

 悠士のキャラがはっきりしてきましたね。直接紗雪のことを好きとは口に出してはいませんが、紗雪が萩原先生に告白すると知って冷静でいられなくなったり、萩原先生に嫉妬して自分が紗雪にあげた誕生日プレゼントを捨ててしまうなど、行動にはっきり表れています。
 一方の紗雪は悠士に冷たい態度だったり嫌いだとはっきり言いましたが、本当にそうなんだろうか?最初に嫌いという紗雪の言葉を聞いた(読んだ)時は少し驚きました。最初の頃の二人の様子を見ていてもお互い嫌いなようには見えませんでした。たしかに恋愛感情とかそういうことはわかりませんが、幼なじみだから良いことも悪いことも何でも言い合えるような雰囲気。なぜ紗雪が悠士を嫌いなのか、気になるところです。

 紗雪の先生への想いも確かなものになってますが、お見舞いに行ったら先生にキスされたけど本人は覚えていない…という悲しい結果に。好きな人にキスされたけど、その相手が熱で浮かされて意識がもうろうとしていて覚えていない…というオチはたまに使われる手法で新鮮味がないのだけど、先生が風邪をひくまでの前置きのくだり、栞たちが呪いをかける(実は、その時先生はすでに風邪気味だった。)という笑っていいのか真面目に捉えたらいいのかわからないところが面白いです。

 同好会でホットケーキがうまく作れない悠士に、「悠士のホッと―ケーキは反抗的」とか、“かっちゃん”というニックネームを自分だと思ったり(本当は萩原先生の下の名前を呼んでいる。)する梶のナルシストぶりや、悠士が周りからどうでもいい存在的な立場だったりなど、脇役男性陣のやりとりが笑えます。
 栞のキャラクターもいいですね。どこでも本を持ち歩いて、ちょっとミステリアスな雰囲気があって、でも実は物語を進行させるために十分役だっている存在です。シーンに応じた本を持っているのがすごい。呪いの本とか。(笑)


 3巻  2008年9月12日 発売

 チョコレートコスモスの花言葉って恋の終わりという意味なんですね。知らなかったです。勉強になりました。コスモスは色によって言葉も違うようで、よりによってバレンタインに一番あり得ないような花を先生に贈ってしまう紗雪って… 私も知らなかったものだから、その意味を知った瞬間にサーって気持ちが真っ白という真っ黒というか。それなのにその後に「好きです。」とか告白されても先生でなくても困るというか返答のしようがないですよね。チョコレートコスモスの花言葉の意味を知っていた梶くん。梶君って物知りで頭良さそうな雰囲気ですね。

 先生に告白したことの噂が広まって悠士が紗雪は自分の彼女と言ってしまいましたが、それって紗雪が好きだから庇ったというか火消しの力になってあげたいが故の行動でしょう。とっさの判断で考えている時間がなくてあんな嘘ついてしまいましたが、悠士でカモフラージュしとくのは手だと思います。でも、本当は悠士としては紗雪の本当の彼氏になりたいという思いがあるんだろうな。

 すっかり忘れていた料理して食べて野球する会。(笑) 今まで料理するだけの活動で野球のことなんかすっかり忘れ去られた存在になっていましたが、主人公たちが2年生に進級してやっと野球の出番が。悠士もやる気になってきたし。もともと悠士、梶、紗雪、美奈、栞の5人だったのに萩原先生が顧問と知り部外者がぞろぞろやってきて、いつの間にかただの料理クラブになってました。やっとそれらしくなってくるかな。料理は後から追加されたものだからもともとは野球がメインだしね。
 そんなところへやってきたのが萩原先生となにやらただならぬ関係にありそうな新入部員の小村由佳子。萩原先生は生徒と付き合ったことがあるのかもしれない…という伏線があった直後の登場でいかにもという展開。当日の部の課外活動で由佳子と先生だけ来ないという読者の気持ちを煽るところで3巻終了ですが、結末がどうであれ彼女がこれからのキーパーソンとなるに間違いはないと思います。気になります。

 萩原先生は童顔を隠すためにメガネをしてたいのかな?学ラン着ても違和感ありませんでした。(笑) ていうか、萩原先生って3年の副任だったんだ。萩原先生は紗雪との接触が多くても彼女のクラス担任ではないし、受け持ちクラスの様子が描かれてなくて、今頃になって判明いたしました。それを会話の中でさらっと判明させるあたりがよかったです。


 4巻  2008年11月14日 発売

 由佳子の姉が高校時代の萩原先生の担任という、先生が生徒と付き合っていたのではなくて、萩原先生が高校生の頃に担任の先生と付き合っていた、という先生と生徒がうまくいくはずがないという伏線は残したまま、逆パターンの結末でした。
 萩原先生の心の整理が着いたその日に、あっさり紗雪と先生がくっついてしまいましたが、萩原先生が紗雪の気持ちを断ったのも自分の経験があったのからかもしれませんね。少女マンガの主人公は一途に想って先生が次第に落ちていくという流れですが、萩原先生も紗雪に全く気持ちがないわけではなかったのかも。最後に高校時代の先生に会って背中を押してもらったのかもしれませんね。

 紗雪と先生がうまくいったということは悠士が失恋決定に… やはり昔は両想いだった紗雪と悠士なので、今回の結末は悠士の気持ちを考えると切ないです。紗雪は悠士が自分に意地悪ばっかりしてきて嫌いだと思い込んでいましたが、意地悪はシャイな人なりの愛情表現でもありますし、好きという気持ちの裏返しでもあります。お互い気持ちを素直に伝えず心にしまいこんでしまったのが残念な結末の一因であると思います。紗雪があの日に海に行って先生と会ってさえいなければ悠士にもまだチャンスはあったのかもしれませんが、はじめから二人は友達以上恋人未満な仲という運命がすでに決まっていた、そんなふうにも思います。
 最後にはお互いちゃんと向き合って気持ちを伝えた悠士と紗雪。紗雪の気持ちは先生に向いてしまったのでもう遅いけど、誤解を解いて気持ちの整理をつける二人が大人になったようで胸にじいんと来るいいシーンでした。冒頭カラーページの子供の頃の紗雪と悠士が可愛いかったです。
 梶はモテキャラで悠士はモテないキャラですが、私は悠士プッシュしたいです。紗雪とうまくいかなくて残念だったね。脇役の中でも悠士お気に入りです。番外編でこそかっこいいセリフを決めてますが、そういうところでしかカッコよくなれない悠士が不憫だ…(笑)

 少女マンガなので最後というか両想いになってからはやっぱりベタベタな甘い展開で,(笑) さすがに大人になって読むと恥ずかしい… でも、掲載誌が子供向けのりぼんということもあって、わかりやすい納得できる最終回で読み終わった後の余韻はよいものになっています。